「んっ………ねぇ、最後に何か言う事あるかしら」
張り付けにされている餌と唇を重ねながら、リーネは尋ねる。
「大丈夫よ、あなたの心はまだ壊れてないでしょ。まだ、ほんの少しだけ理性が残ってるはずよ」
壊れかけの人間から唇を離し、自らの銀色の長い髪をかきあげながら、リーネは餌を見つめる。
すぐに返事がこない、もしかして、もうこの餌は完全に壊れてしまったのだろうか。
リーネは指を伸ばし、餌の唇をそっとなぞる。
すると、その刺激がきっかけとなったのか、餌の下半身から白い液体が一気に漏れた。
「あんっ、勿体ないじゃない。出すなら中にだすの」
予想外の精液の放出に、リーネは慌てながらペニスに唇をつける。
サキュバスの居城、その主であるリーネの寝室、主人の気まぐれで設置された遊具、
その遊具に張り付けにされている餌のペニスを、リーネは上目づかいで吸い始めた。
「んふっ……ねぇ、私がさっき言った事がわかるかしら?」
ペニスを口に含み、ジュポジュポと音を立てて精液を吸いながら、リーネは餌に問いかける。
「もうすぐあなた死んじゃうの、サキュバスに命を全部吸われちゃうんだけど。その前に何か言い残すことはないかしら」
本来、このように食事中に音をたてるのはマナーが悪いとわかっていたが、
それでも、リーネはこの問いかけに対する餌の返事が欲しかった。
「サキュバスとして、餌の想いはちゃんと叶えるわ。安心しなさい」
餌がガクガクと震えてきているのがわかる、
ペニスから精液が漏れ続けているから、これは射精の合図ではない、
もうすぐ命がなくなる、サキュバスに捧げる大事な精が空になるのを伝える震えだ。
今すぐこの餌に死なれては、壊れてしまっては困る。リーネは精液を吸う唇の動きを少し緩めた。
「こらっ、まだ死んじゃ駄目よ。もっと、もっと生きて精液を出し続けなさい」
何かやり残した事や伝えたい事がある、餌として人間の命を吸う以上、その人間の想いもきちんと受け止めないといけない。
それは食事マナーよりも大切な、サキュバスとしての大事な誇りだった。
ペニスから唇を離し、リーネは殆ど動かなくなった餌の顔をじっと見つめた。
唇を離しても、依然として餌のペニスから精が漏れ続けている。
サキュバスに弄ばれ、完全にこのペニスは壊れてしまった。
もう、この餌が死ぬまで、命の放出は止まらないだろう。
「それとも、もうあなたには思い残した事は無いのかしら」
淫魔に精を吸われ続け、やせ細ってしまった餌の顔を両手で包みながら、優しい口調でリーネは問いかける。
「いいわ、ならそろそろ吸い尽くしてあげる。すぐに、あなたを眠らせてあげるわ」
そのまま、リーネは自分の胸に餌の頭を押し付けた。
「大丈夫よ、怖くなんかないから、全部私にまかせるの」
自分の中で餌が震えているのがわかる、きっと恐怖で怯えているのだろう。
「……………………を………に」
胸の中から声がした、この餌がわずかの命を振り絞って何かを伝えようとしている。
ゆっくり胸から餌を解放すると、餌の顔がある方向を向いているのがわかった。
「あれを……息子に…………」
そこには、この部屋に餌を連れてきて早々に脱いだお互いの衣服があった。
上には自分のレオタード、その隙間からわずかに餌の衣服が見えた。
「頼む……」
全てを言い終わると餌は大きくうなだれ、完全に動かなくなった。
リーネはそっとその胸に手を当てる、心臓がまだ動いているから死んではいない、
残り僅かの命を振り絞ってでも、そこにある何かを息子に託したかったのだろう。
「わかったわ……あなたはとっても強い子なのね」
リーネは自分の下半身に手をあてがった。本当の食事を前に、陰部が激しく濡れているのがわかる。
「もう休んでいいわよ……ゆっくり、眠っていいの」
サキュバスに壊され、射精が止まらなくなった餌のペニス。
そんな壊れた性器に蓋をするように、リーネは自分の興奮を抑えつつ、慎重に腰を下ろした。
「あんっ……」
ヌチュっと粘膜がこすれ合う音が響き、淫魔が陶酔の声を上げる。
「ねぇ、この程度じゃないでしょ。だってあなたは強い子ですもの」
自分の体に、命が入っていくのを感じながら。
リーネは目の前の餌を、それまでより強く、両腕でギュッと抱きしめた。
「もっと、もっと精液を出すの。まだ体に残ってるでしょ」
リーネは腰をくねらせながら、餌の射精を促すように、体から搾り出すように、
ギュッ、ギュッと何回も、強く餌の体を絞り上げていく。
「駄目よ。だってあなたはここで死ぬんだから、私に全てを捧げるんだから、何も我慢しないで全部出すの」
獲物の体をキツく締め上げる度、自分の体内に入ってくる精が勢いを増していく。
もっと、少しでも多くの命を搾りだすよう、リーネは餌を抱きしめ続ける。
リーネの優しさが伝わったのか、それまで押し黙っていた餌が奇妙な呻き声を上げ始めた。
「どうした、そんなに辛そうな声出しちゃって」
興奮のあまり、強く餌を締め上げすぎてしまったか。リーネは一瞬考える。
「あっ……そうか、もう逝っちゃうのね。うん……わかったわ」
グチュグチュと精液の混ざる音が響く中、リーネは餌の死を本能で感じ取った。
きっと今の呻き声も、自分はもうすぐ死んでしまう、だからその前に、もっと精液を吸い取ってくれという餌のメッセージだったのだろう。
最後の最後までなんて素敵な餌なのか。リーネは優しく微笑むと、目の前で涙を流している餌に唇を重ねた。
「ん……はぁっ……いいわ、一緒に逝きましょう」
唇越しに、暖かい命を感じる。
精液を搾り取る動きを加速させながら、リーネはその命を吸い取るように、強く餌の舌を吸い込んだ。
「んんっ!…………」
張り付けにされている餌の体が、強く大きく跳ねる。
ガタガタと拘束器具が揺れる中、リーネは目の前の命が完全に無くなるまで、強くその体を抱きしめ続けた。
「……おやすみなさい…………サキュバスに命を吸われた感想はどうだったかしら、気持よかった?」
事切れた餌から体を引き抜くと、リーネの陰部から収まりきらない精液がじわりと漏れた。
何処からか、主人の食事が終わるのを待っていたメイドが音も立てずに現れる。
メイドは綺麗な薄い布を取り出すと、リーネが命令するまでもなく、手馴れた手つきで主人の陰部から溢れる精液を拭った。
「それを持ってきてもらえるかしら……ええ、私の服の下にあるほうよ」
リーネの命令で、メイドは少し離れた所にある、脱ぎ捨てられた餌の衣服を持ってくる。
その途中、メイドが運んでいる服から何かが音を立てて床に落ちた。
「申し訳ございません、リーネ様」
メイドの喋り方は落ち着いていたが、主人の前でミスを犯し、その心はかなり動揺しているのがリーネにはわかった。
このメイドは少し融通の利かない所があり、どんな些細な事でも自分に責任を感じ、思いつめる癖がある。
「いいわよ、何も言わなかった私が悪いんだし」
なのでこのようなフォローをしないといけない、実際このメイドは何も悪い事はしていない。
「お心遣いありがとうございます」
メイドが深々と頭を下げ、自分が運んできた衣服から落ちた何かを拾う。
「これは……ナイフですね」
メイドがその刃に軽く指をあてると、その白い指先から、ほんのわずかだが血がにじみ出た。
「銀製のようです、これでリーネ様を襲うつもりだったのでしょうか」
それは無い、そのつもりならこの部屋に入った時点でそれを出し、この餌は襲いかかってきたはずだ。
だが実際は部屋に入った瞬間、餌は自分に見惚れ動かなくなり、少し息を吹きかけただけで簡単に虜になった。
「そんな悪い子じゃなかったわよ、この子はもっと素直で、それでいて美味しかったわ」
リーネは寝室の扉を開けた、食事で精液を浴びた自らの体を洗いに行く為だ。
「その子には子供がいるみたいなの。良かったら、何処に住んでいるか調べてくれるかしら」
「わかりました」
食事を終え、体を洗い、リーネは自分の部屋に戻る。
「…………」
久々に今回の食事は楽しめた。
食後の心地よい満足感を味わいながら、窓辺の椅子に座り夜空を眺める。
頬杖をつき、物思いにふけりながら、ゆったりとした時間が流れた。
「……暇ね」
1時間ぐらいは座っていただろうか、そう思って時計を見るが5分も過ぎていなかった。
しょうがないので落ち着いて、ゆっくりと紅茶を飲む。
誰も見てないが、いつもより少し優雅な感じで飲んでみた。
これで少しは時間が過ぎただろう。そう期待して時計を見たが、その長い針はさっき見た時と変わっていなかった。
「……んんー」
腕を伸ばし、何か面白い事がないか考える。
刺激が欲しい、ほんのわずかの暇でも我慢出来ない。
これは自分の性格なのか、サキュバスとしての種の個性なのか、
暇つぶしの議題を無理やり頭に浮かべ、リーネがあれこれ考えていると、部屋の扉が開きメイドが中に入ってきた。
「何かあったの?」
メイドに語りかけながら時計を見る、その針は先程より5分ほど進んでいた。
暇という最大の敵を相手に、自分としてはなかなか耐えたと思う。
「例の餌の子供、その居場所がわかりました」
「あら、もう見つけたの。そんな急がなくていいのに」
本当このメイドはよく尽くしてくれる。正直、自分には勿体無いぐらいだ。
ご褒美に今度少し遊んでやろう、きっと喜ぶはずだ。
「それで、その子は何処にいるのかしら」
新たな刺激を期待して、リーネは自分の胸が期待で高鳴るのを感じた。
「それが、その子供……少年なのですが。他のサキュバスに連れ去られてしまったようです」
「あら……そうなの」
リーネは自分の中の期待がしぼんでいくのがわかった。
どこのサキュバスかは知らないが、捕まえた人間をそんな長く生かしておくはずがない。
長くても1日、早ければ数時間もしない間に食事として命を搾りつくしてしまう。
きっと、少年の命も既にサキュバスの体の一部になっているはずだ。
「その少年はリックス地方に住んでいるようですが」
リーネはその地方の名前だけは知っていた。
ここから大分離れた場所だ、飛んでいくにしても少し時間がかかる。
ただ、例えそこが遠くても、自分の一部になった餌の願いは叶えるつもりだ。
もし、その少年が既に亡くなっていたとしたら、その亡骸に形見のナイフを備えよう。
「わかったわ、とりあえずそのサキュバスに会ってみないとね。名前はわかるかしら」
「ジョゼという若いサキュバスです。最近母から独立し、一人で屋敷に住んでいるようです」
「ジョゼ……ね。一応まだその子が生きているのを信じて、早速会いに行ってみるわ」
自分の中の刺激を求める心を奮い立たせ。窓を開けたリーネは翼を広げる。
「もしかしたら、その子は生きているかもしれません」
メイドの言葉に、飛び立つ寸前のリーネの動きは止まった。
「噂によると、ジョゼというサキュバスは少食で、餌をしばらく愛でてから。食べるらしいのです」
本当にこのメイドはよくできている。帰ってきたら大いに遊んであげよう、声を上げて喜んでくれるはずだ。
萎みかけていた自分の心が復活するのを感じ、リーネは寝室の窓から夜空へ飛び立った。
個人的にはその子が生きていてくれると嬉しい、一目どんな姿か見てみたい。
あんなに素敵な餌の子はいったいどんな心を持っているのだろう。
きっと親にも負けないぐらい、強い立派な心を持っているのかもしれない、
もし、その子と出会った時に、本能がその子を求めたら思ったらどうするか、
答えは決まっている、サキュバスとして、誇りを持ってその命を味わうだけだ。
それが、例え他のサキュバスから餌を奪うことになっても。