婚約者が消えた、それも結婚式の3日前に。
当然自分だけでなく、相手方の親族も巻き込んでの大騒ぎになり。
「ウチの子が本当に申し訳ありません、何度謝ってもたりない」
結局婚約者が見つからなかった結果、多額の示談金をもらうという事で決着がついた。
一応お金を受け取ったものの、自分は本当にあの女性を愛していた。
「俺が絶対見つけますから、そうしたらこのお金は返します」
あれから数ヶ月立った今でも、何処かにいないか、時間を見つけては婚約者、ユイを探し続けている。
「ユイ?」
ビル街から少し離れた小道、意外なほどあっさりと、俺は婚約者を見つける事ができた。
少し離れた場所で、見知らぬ男と手を繋ぎ歩く元婚約者。
「さ、それじゃあホテルに行きましょ」
慣れた様子で、男を引っ張り歩き始めるユイ。
男も少し緊張した様子だが、ユイについて行き何処かへ向かおうとしている。
「……あの男、新しい恋人だろうか」
あれほど探していたのに、いざ見つけるとどうしたらいいかわからない。
それも別な男と歩いてる、ホテルと言ったがまさかそういう目的のホテルだろうか。
案の定、ユイと男はラブホテルの中へと消え、そのまま出てこなかった。
「……さすがにひどくないか」
別な男がいたのなら……別にそれでいい。
でもその事を言ってもらえば、式の3日前に婚約者が消える婿なんて恥ずかしい思いをしなくてすんだ。
「お前のわがままのせいで、どんだけ大変だったか」
自分だけじゃない、ユイ自身の親族にも迷惑をかけたはずだ。
せめて一言言ってやりたい、二人がホテルから出てくるのを待ってよう。
数時間後、ホテルからユイが出てきた。
と言うより、ユイ1人だけ出てきた。
「……男は置いていったのか?」
まぁその方が都合がいい、すぐに問い正そう。
「おい、待て!」
「ん、あら?」
後ろから話かけ、こちらに気づいたユイの顔は意外なほどあっさりとしたものだった。
「ユイ! お前のせいでどれだけ大変だったか、いやいい、でも何であんな事を」
「……ふふっ、変わったアプローチね、そうやって私の興味を引く気?」
「いや、何を言ってるんだ? 俺だよ、俺、見ててわかるだろう」
まるで、こちらを知らないようなユイの言動。
まさか別人と間違えたか?
いや、そんな訳はない、顔も、声も、つけている指輪も、全部知っているユイの姿だ。
「いいわよ、じゃあ次は貴方がお客さんね。最初からそう言ってくれればいいのに」
「えっ、おいっ!」
そのまま、こちらの手を引っ張ってホテルへと入っていくユイ。
一体何があったんだ、まるで別人みたいだ。
「それじゃあお風呂を入れましょうか、待ってる間に一回ぐらい逝けるわね」
あたり前のように、慣れた風俗嬢のような台詞を言いながら準備を始めるユイ。
「そんな童貞君みたいな顔しないでよ、あなた見た感じ結構やりなれてるんでしょ、こういうの」
確かに、ユイと出会う前は何回か、こういう店を経験したこともある。
でもその事は、一言も言ってないはずだ。
「さ、楽しみましょう。一緒に溶けて最高のセックスをしましょう」
そのまま積極的に、婚約者の元へユイが唇を寄せてくる。
「待てよ、俺はこういう事がしたいんじゃ」
やはりおかしい、こんなの、俺の知っているユイじゃない。
「もう、今更怯えないの……んっ」
そのまま、唇が触れる。
今まで何回も重ねた、婚約者の艶やかな唇。
「やめろっ……んんっ……んっ!」
でも違う、なんだこれ、今までのキスじゃない。
「捕まえた、うふふっ」
そのまま俺を押し倒しながら、深く、執拗に、女が唇を重ねてくる。
まるで何かを、吸い尽くすように。
「お前……誰だ!」
「あんっ」
無理やり押し返すと、女はそのまま尻もちをつき艶かしい声を上げた。
「なによ、私は私、ええと……ユイだっけ?」
いたずらっぽく微笑みながら、ゆっくり、女が近づいてくる。
「あなた、何か私の事を知ってるみたいね……ふふっ、面白い」
バスルームから聞こえる、浴槽にお湯を注ぐ音。
黄色い照明の部屋の中、俺の知らない女が、ゆっくり、笑いながら近づいてくる。
「ほら、ここ……大きくなってるわよ」
女の手が、下半身に触れた。
「よくわからないけど知り合いなんでしょ、いいじゃない、知っている女に金を払ってセックスさせてもらうって」
俺の知ってる顔で、知ってる声で、女が誘惑してくる。
でもこれはユイじゃない、俺の婚約者じゃない。
「記憶喪失にでもなったのか、それともからかってるのか?」
「ふふっ、そんな事無いわよ。私、貴方のこと、大好きよ……んっ」
再び、女が唇を重ねてきた。
「んふっ……そう、抵抗しなくていいの」
吐息を吹きこまれ、ぼんやりと、周りにアロマでも焚かれたみたいに、甘い匂いが漂っていく。
「ほら、クチュクチュクチュ♪ ズボン越しに指先で擦り上げてあげる」
「やめろ、そんな事するな」
「もう、恥ずかしがらなくていいのに」
ズボンの上から、女の指先が触れる。
ゆっくりジッパーを下げ、中に入り込んでくる。
「あぁん、熱いおちんぽ、これはしばらく抜いてないわねぇ」
「そんな暇あるわけないだろ、自分のやった事をわかってるのか」
「ふふっ、わからないわよそんなの、んっー」
唇を吸いながら、ズボンに侵入した手の動きが激しくなってきた。
衣服の中に無理やり入り込んで、指先でいやらしく、性器の尖端を刺激してくる。
「お前、いつの間にこんな事……覚えたんだ……ぐっ」
「その我慢してる顔かわいいー♪ ほらほら、我慢なんてしなくていいんですよー」
前にセックスした時はこんな姿見せなかったのに、駄目だ、声が止まらない。
「やめろ……うわっ……頼むっ……離せ……ううっ!」
「離しませーん、やめません♪ あなたを逝かせるまでシコシコ続けますよぉ」
耳元で、女が艶めかしく囁いてくる。
本当に逝ってしまう、このままだとズボンに指を入れられただけで、情けなく射精してしまう。
「我慢なんかやめて……素直になりましょ……ふぅー」
耳に吐息が触れる……駄目だ……逝くっ。
「ぐぅううう!!」
「あはははっ、いい声、必死で我慢しながらビューって、無様に逝っちゃったわぁこの子」
逝ってしまった、婚約者の手で情けなく……声まで上げて。
「あぁん、濃い精液、ほらほら、汚れちゃうからズボンを脱ぎましょう」
倒れこんでいる俺をもっと犯そうと、ユイがズボンを脱がしてくる。
「はい、綺麗に脱げましたねー。それじゃあ、ちょうどいいしお風呂に入りましょうか」
「……なぁ、お前ユイだろ、なんでこんな事するんだよ」
精液を舐めながら、楽しそうにバスルームに向かうユイに、後ろから話しかけた。
「そりゃ気持ちいいからよ、セックス」
「違うだろ、お前はそんな奴じゃないはずだ……いや、そうだとしても」
変わり果てた婚約者の姿を見て、感情が抑えきれない。
俺はズボンを脱がされたまま、ユイの両肩を掴んで詰め寄る。
「あら積極的ね、お風呂に入る前にまた逝きたいの?」
「いくらなんでもこれは酷いだろ、なんでこんな事を……」
涙がでてきた、これまでの苦労と、今の自分の姿の惨めさに、声が震える。
そんな俺を、ユイはどう思うのだろうか。
「ふーん、そうか、あなたあの子の婚約者だったんだ」
思いがけない、婚約者から帰ってきた他人行儀な言葉。
「えっ、なんだよそんな、自分の事の癖に」
「ごめんなさいねー、あの子は少し遊んであげたら、もう私のモノになっちゃった」
次の瞬間、ユイの体が薄暗い光に包まれて。
「お前……誰だ」
そこから出てきたのは、頭から角の生えた、見知らぬ女だった。
「でも言ってたわよ、あなたのつまらないソレより、私の方がずっと気持ちよく逝かせてくれたって、うふふっ♪」
「な、何言ってるんだ」
突然現れ、いきなり変な事を言い出す羽の生えた女。
「私もあの子のことは気に入っちゃって。だからこうして姿を借りて人間を捕まえてたのよ」
状況が理解できない、こいつがユイに化けていたって事なのか。
「んー、まぁいい事思いついたわ。ほらほら、お風呂に入りましょ、そこでじっくり、話をしてあげる」
そんな、悠長な事ができるか。
「それに、ここで逃げ出すような臆病者さんじゃ、大事な婚約者も救えないわよ」
顔を近づけ、こちらの心を見透かしたような女の台詞。
今まで見たこともない、恐怖すら感じる美しい顔をに、胸がドキッとなる。
「気をつけろよ、少しでも変な事を言ったら、何をするかわからないぞ」
「まぁ怖い♪ さ、こっちにいらっしゃい」
「それでね、私はサキュバスのセレンって言うの、あなたも存在ぐらいはわかるでしょ」
サキュバス、男の生気を吸って生きる空想上の生物。
子供の頃に遊んだゲームなどで、そういう名前の敵が出てきたのを覚えている。
「でね、久しぶりにこっちの世界に来て、いろいろ遊んでたら、生気を吸うのを忘れてうっかり倒れちゃってね」
その女が、俺の後ろに回りこんで、泡のついた……指先で……性器を弄んでくる。
「ううっ……ぐっ」
「あらあら、私は体を洗ってあげてるだけよ、情けない声を出さないでよ」
体の洗いっこしましょう、言うこと聞かないと何も喋らないわよ。
自称サキュバスの女から出された言葉。
「そこを助けてくれたのがユイちゃんってわけ、とてもいい子じゃない……ふふっ、あら」
当然それに逆らう事はできず。
俺はただおもちゃのように、バスルーム内で全身を弄ばれている。
「喋るのを止めるな、続けろ……うわっ」
「乳首も丁寧に洗わないとねー、ほらほら、なかなか開発されてる乳首みたいね、あはははっ」
サキュバスの指先が、まるで別の生物みたいに胸元を這いまわってくる。
こんな所いじられた事もない、敏感な先端部分だけ執拗に……細い指先が激しく擦り上げてくる。
「ああっ……ううっ……早く喋って……うあっ……くれ」
大きな胸が背中に触れて、耳に吐息が触れて。
乳首をいじられ、また、声が止まらない、こんな経験初めてだ。
「可愛い子だったし、善良なサキュバスとしてはお礼をしなきゃね、それで、少し、一緒に遊んであげたのよ」
喋りながらどんどん、サキュバスの指の動きが早くなってくる。
こんな性器も触られてないのに、乳首をいじられただけで、逝かされる。
「そうしたらもうドロドロ。よっぽど今までの相手が下手くそだったのね、マンション中に喘ぎ声が響いてたわ、あははっ」
「お前、ユイになんて事を……うわっ……ああっ」
「んー、出しちゃうの? ふぅー、乳首コリコリされて、耳に吐息を吹きかけられただけで、ピューピュー、まーた逝っちゃうんだ」
サキュバスの声が、耳に響いてくる。
今までに聞いたこともないような甘い口調で、こちらの全身を溶かしそうな響きで。
激しく乳首を刺激しながら……逝かされる。
「だ、だま……んっ……ううっ!!!」
「ふふっ、まーたお漏らししちゃった。立派なおちんぽからトロトロ、精液がでてますよぉ」
人間を逝かせ、サキュバスは満足したように立ち上がり、お湯を張った浴槽の中に入っていく。
「見た感じちんぽは立派じゃない、それで好きな女も満足させられないとか情けないわねぇ」
「うるさい、それでも俺は好きだったんだ、きっとユイも……」
だから、サキュバスには騙されただけのはず。
きっと会えれば、また戻ってきてくれるはず。
「ふーん、面白い事言うじゃない。いいわよ、じゃあゲームしましょ」
ゲームだと?
「これからあなたが尽きるまで、私を一回でも逝かせたら、婚約者に会わせてあげる」
射精した直後の人間を見下ろしながら、サキュバスは言葉を続ける。
「ま、もちろん最後はあの子の気持ち次第だけど」
浴槽の中で足を上げ、こちらを誘惑しながら、その反応を楽しむかのように。
「怖い? もしかしたら自分じゃなく、私の方を選ぶかもねぇ」
「わかった、そのゲーム受けてやる」
相手がなんであれ、悪魔に奪われたユイを取り返してやる。
俺は頷いて、サキュバスの提案するゲームに乗ることにした。
「ふふっ、楽しみねぇ。さっきの男みたいに、あなたも私の一部にしてあげる」